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Vol.5 『夫の財産の一部が愛人の名義に。取り戻せる?』(「蘇る」より)
夫をガンで亡くしました。生前から夫には愛人がいたので、私たちの夫婦仲はあまり良くありませんでした。愛人とは半同棲生活をしていた時期もありますが、ガンになってからは長期入院生活を送っていましたので、その後は会っていないはずです。
夫は、親の代から私たちの生活の心配がないくらいの財産を残しました。夫の死後、遺産相続の手続きをしていたら、夫名義の500坪の土地が、知らない間に愛人の名義に変わっていたのです。
その土地は夫の親が残したもので、夫の死後は私と子どもたち息子・25歳、娘・22歳のものになるはず。それなのに、愛人の名義になっているなんて・・・。この土地は、裁判で取り戻せるのでしょうか?
(Y・M/54歳/主婦)

岡野 この500坪の土地ですが、本来は相談者2分の1、子2分の1で相続したはずですよね。
遺留分(※1)の侵害として土地の返還請求はできないんですか?
弁護士 このケースの相続人は妻と子どもですから、妻の遺留分は4分の1です。
遺留分を計算する場合、死亡時の財産と、死ぬ一年前の他人への贈与財産、あと、1年以上前であっても、贈与した側(夫)と受けた側(愛人)が、遺留分に食い込むことを知りながらやりとりした財産も対象となりますが・・・。
このケースは相続財産がかなり多そうですし、名義の移転もかなり前のようで、遺留分を侵害したかどうかは、この文面からは判断できません。
岡野 侵害していないと、この土地はもう取り戻せない?
弁護士 結論を出す前に、このケースはどうにも不自然な点があります。
土地がもし愛人に贈与で移転しているのなら、贈与税は最高70%の税率がかかります。例え土地を500坪もらっても、首都圏のこの土地なら、400坪ぐらいを売らないと税金は払えません。そんなこと、普通はしませんよ。もしかしたら、形だけ売買にして、愛人はお金を払わずに土地を貰った可能性もあります。正式な売買だったなら、夫の口座などに売買代金が振り込まれているはずです。
岡野 相談者の何か変だという直感はかなり当たっているようですね。夫は500坪の土地でつって愛人にしたのかもしれません。すると、相談者がまずやるべきことは、所有名義が何で移転したのか調べることでしょうか?
弁護士 そうです。登記所に行き、登記簿謄本や提出された原因証書などを閲覧して、移転した際の登記原因を確かめた方がいいですね。
その時に所有権が移転したのはいつなのか。夫の入院生活中の名義変更はあり得ないわけですから、土地の移転時の前後関係を調べることです。不安なら、弁護士か司法書士に調べてもらうといいでしょう。
岡野 登記の手続きを調査して、対抗手段を獲得するわけですね。愛人は、名義が変わった途端、病気をいいことにさっさと逃げた可能性も考えられますよね。
ところで、夫は本当に愛人にやったのでしょうか?
もし愛人が筆跡を真似て委任状を作成し、登記をしていたとしたら恐いですね。それは犯罪でしょ?
弁護士 登記の際の委任状など、文書の筆跡は本当に夫のものなのか、私文書偽造だったら犯罪です。愛人に犯罪で訴えるから、「売買代金を払え、土地を返せ」と言う方法もあります。不明な点があれば、有効な法律行為だったのかを争うことができます。
岡野 あと、先生に聞きたいのは、夫は既に死んでいますが、相談者は愛人に慰謝料を請求できるんでしょ。もう時効ですか?
弁護士 愛人には不法行為に対する慰謝料を請求できます。この時効は3年です。相談者は生前から愛人の存在を知っていたので、愛人と夫が具体的に付き合いがあった最後の時から3年以内なら請求は可能です。
岡野 では、慰謝料の代わりに「この土地を返せ」とは言えませんか? これだけの土地でしょ、相当の額を請求しないと腹が立ちますよ。
弁護士 日本の場合慰謝料の金額は300万〜500万円程度、高くてもせいぜい1,000万円です。この土地の評価額が2億円ぐらいなら、裁判所もどこまで認めるかわからないけれど、「愛人はあまりにももらいすぎ。もっと慰謝料を払え」と言う可能性はあります。評価額の半分ぐらいは請求してみてもいいかもしれないですね。
岡野 愛人に気づかれたら、この土地を売られてしまう可能性もありますよね。
弁護士 売却して現金化されてしまう前に、慰謝料請求を目的に土地が処分されないよう裁判所に保全処分(※2)を申し立てた方がいいですね。ありとあらゆる手段を駆使して調べ、追求したらいいと思います。とにかく、相談者は甘い! 夫と愛人が半同棲生活をしている間に、慰謝料請求などの手を打っていないから取られてしまうのです。
岡野 でも、調査次第では土地が戻ってくる可能性はありますよね。これだけの財産を取り戻せなかったら、一生後悔します。取り戻してほしいですね。
弁護士 そうですね。ぜひ頑張ってください。

遺留分(※1)
特定の相続人(配偶者、父母、子)に認められた被相続人の処分を規制できる相続財産の割合額。被相続人の死亡後、相続人の生活を保障し、相続人間の公平を図るための制度で、被相続人は自らの財産でも遺留分を侵してまで処分はできない。
保全処分(※2)
将来行われるべき司法上の給付請求権の執行を保全するために債務者の財産の処分権を奪っておくことを目的とする手続き。仮差し押さえ・仮処分などがある。
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